かっこいい蛸引き(19本目)/さっきの続き

■蛸引き包丁とは
蛸引き包丁とは刃の先から刃元までを使い引き切る刺身包丁。片刄。
こうした蛸引き形状は、関東型といわれる刺身包丁で先が四角いのが特徴。
一般的には、柳刃と呼ばれる先がとがったものより、この蛸引き包丁のほうが、薄切りに適しているといわれている。
しかし、最近は柳刃が主流になり、蛸引きは細々と生き残っているということらしい。


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 魚河岸横町でのランチを終えて、場外へ行ってみた。14時近かったせいもあって、目ぼしい店は閉まっているところが多かった。だったら、すぐ帰ればよかったのに、さまよっているうちに『子の日』の前へ出てしまった。
 築地市場周辺には、『正本』や『有次』が何店かある。もう何年も前だけど、やっぱり食事のあと、ふらふらしていて、正本で家庭用だけれど、名入りの出刃庖丁を手に入れた。確か¥8000だったと記憶している。その後、築地を訪れたとき、有次の銅の卸し金を買った。大根降ろしが、すこぶる美味しくできるそれは、¥9800した。
 そんな昔のことを思い出したわけではないが、なんとなくやばい感じが心の隙間を通りすぎた。子の日は、正本や有次と違って、プロっぽいカッコよさを通り越して、マニアックなのだ。行ってみれば分かると思うが、例えばメイドインジャパンの牛刀の柄に水牛の骨が平気で使われていたりする。話を聞いていると、大手のように大量生産しない代わりに、要望があればどんな包丁でも作ってしまうのだという。置いてある和包丁は、堺の伝統工芸士達の手になるもので、伝統的な製法で作られている。
 
 実は、前々からいい蛸引きが欲しいとは思っていた。西荻窪ののらぼうの店主の牧夫さんが、野菜を切るのに実に気持ちよさそうに蛸引きを使っていたからだ。柳刃は刺身包丁として携えているが、ここはひとつ牧夫さんの包丁さばきをお手本に蛸引きで、葉物以外の野菜をおいしくカットしたいものだ。実際彼が切った野菜は、多分自分が切られたことに気付かないのではと思えるほど、切り口がみずみずしくなめらかなのだ。最近はサラダ用にピーラーで胡瓜や大根を引いたりするが、あれは舌触りがざらついて、半ば野菜が死んでしまったような味がする。と、私は思うのだが、蛸引きなら紐皮野菜もきれいに美味しくできるのだ。
 
 それでも、今日は包丁を買いに来たわけではないから、見るだけのつもりで、女将に掛け合った。しかし「蛸引きと」言った途端に、何に使うのだと逆に聞かれる始末。だいたい、先に書いたことを語ったら、「今はほとんど作ってないからねぇ・・・あ、でもちょっと待って。お客さんの身長だと、尺はいるはね・・・」と、云いながら、出してきた。それを見せられて、本当にやばくなった。思っていた通りの理想の蛸引きがそこにあったのだ。おまけに鞘までついている。しかし¥48000だ。う~ん、背に腹は代えられないから、出直してくることにして、暫く取り置き出来るか聞いてみようと思った。
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 しかし、そんな交渉をする前に女将は言った。「これは、昔作ったもので、正直言って置いといても、いつ売れるか分からないから、3割引いてあげる。(ここで女将は電卓をたたく)7掛けだから¥33600だけど、¥30000でどお?。¥48000で出している尺ものの柳刃と同じものだよ。それに、今日は砥ぎ師が来ているから、刃を付けてお持ち帰りできますよ。」 そう言われて、決心してしまった。また悪いことに、たまたま¥30000が財布に入っていたから、仕方ない。
 
 プロが使う包丁はこんな値段では買えない。しかし、普通の一般家庭だったら、数千円か高くても¥15000くらいまでの包丁を2~3本くらいが大多数なのではなかろうか。それで大抵の家庭料理は間に合うのだ。だとすると、かなりの額を無駄に投資しているのかも知れない。それに和洋混在とはいえ、ちょっと持ちすぎのきらいもある。それでも私は、刃物に弱いのだ。次に欲しい包丁ももう決まっている。
 そんなに包丁があるくせに、恥ずかしい話だが、私は包丁を砥げない。下手に砥いで、パアにしたらと、思うと恐いのだ。だから砥石も持ってない。全部、お願いして砥いでもらっている。この蛸引きも自分で砥ぐつもりはないが、折角だから刃付けを見せてもらった。ずいぶん若い砥ぎ職人さんと思っていたら、子の日の社長さんだった。先代が早くに亡くなったとのことで、若くして2代目を継いだそうだ。「若いと言っても、もう四十ですよ。」と恥ずかしそうに言った。どう見ても30代前半にしか見えない2代目が懇切丁寧に砥ぎ方を解説してくれた。プロから聞くと分かりやすく、細かいところまで得心がいった。
 
 家に帰ってまじまじと眺めると、心底惚れぼれする。そしてこのかっこいい蛸引きで作る料理をあれこれ考える至福の時間を今日は味わえた。

 もののついでにランチを食べに行っただけだったのに、思わぬ散財をしてしまい、深く反省。築地や河童橋は、気をつけねばならない場所なのだ・・・
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by oishiimogumogu | 2010-08-20 23:42 | 器・食器・調理器具


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