旧家を訪ねる(2日目-その5)

 誰も信じないかもしれないが、幼少の砌は、あまり米を食べる子供ではなかった。と、いうより偏食で、食が細かった。その為か体質かは分からないが、ガリガリに痩せた子供だった。
 心配した周りの大人たちは、なんとか少しでも食べさせようと気を遣うので、それがプレッシャーとなり、噛んでいるモノがなかなか喉を通らない。飲み込めないのだ。だから、チューインガムのようにいつまでもいつまでも口の中に食べ物が充満していて、次のものを口に運べない。
 そのうちに疲れてしまうのだが、大人が決めたゴールに到達するまで、食事をやめさせて貰えない。心身共に限界が来て、キレて大泣きする。それでも、普通の同じ年の子供の1/3程しか食べられなかった。
 毎回、このようだったから、私は食事の時間が何より苦痛だった。幼稚園の弁当も他の子供の半分もない量を食べられず、毎日居残りだった。私は、食べずにいられるならどんなに良いだろうと、子供心に常々思ったものだった。

 そう云う時期も段々と遠ざかり、小学校も高学年になったころから、それ程食べることが苦痛でなくなってきてはいた。それでも胃に重いものは、やはり食べ辛かった。ご飯かパンかとなれば、当然食べごこちが軽いパンを選んでいたので、家じゅうで私一人が、朝食にパンを食べて登校していた。当時、給食は殆どパンであったし、夕飯時はおかずだけ食べてお仕舞にすることが多かった。親をはじめ、周りの大人たちも、あれほど食が細かったのに、ここまで食べられるようになったという実感があるから、私の食べ方や好き嫌いも含めて、あまりとやかく言わなかった。
 そう云う訳で、私は10代も後半になるまで、米の飯を殆ど食べずに過ごしてきた。たまに食べても、それほど美味しいと思ったことはない。母の実家は、信州の米処でそこからいつも米を送ってもらっていたから、米屋の標準米と比べたら、かなりいい米をたべていたにもかかわらずにだ。
 と、まあ、ここまでは現在の食欲の権化である私しか知らない人には、「造ってる」としか思われない半生である。

 瑞穂の国、日本。米は日本人の宝である。それは、今回の旅でも、八海山で米から造られる日本酒の醸造工程を見て、長岡のTさん宅を訪ね、米作りに人生を賭けるオヤジの話を聞き、旅館M屋の朝食で、旨い米の握り飯を食べ、弥彦パノラマタワーの上から、新潟平野は田圃の平野だと知り、日本人の宝、米を強く実感した。
 かつて、米を殆ど食べずに育った私でさえ、祖先の遺伝子に導かれるようにして、今ではすっかりご飯党になってしまった。そのきっかけとなる米の味を教えてくれたのが、まぎれもなくこの新潟である。
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 あれは、20代の前半、日本酒を追い求めていた頃である。会社の休みを利用して青春18きっぷを片手に、各地の酒蔵を訪ね歩いていた。
 あるとき、柏崎という駅で降りて、宿を探した。予算制限のある私に観光案内所が予約してくれた旅館は、駅からすぐ近くにあった。鷲尾旅館・・・確かそんな名前の宿だった。旅館とは言っても、泊まり客の殆どが、土木工事作業の為に遠方から来ている労働者だった。滞在型の安宿である。食事も大して期待などしていない。どんなおかずが出たのかも、今ではすかっり忘れてしまった。
 しかし、ここで食べた米の飯が、今まで眠っていた私の日本人DNAを呼び覚ましたのだ。この米の味は今でも覚えている。ふんわりあつあつで、舌触りはなめらか、ほのかな甘みと、ミルクのようなコクがあった。香りは抜群で、湯気の中で昼寝が出来そうなくらいだ。ご飯のおかずにご飯が食べたい!そんな風に思った。
 何か秘訣があるに違いない。そう思って尋ねると、女将さん曰く、「別に普通のお米を普通に炊いているだけ。ガス釜だし、そうねぇ、大人数のご飯だから、沢山炊くことくらい?普通の家と違うところは・・・」と、米の美味しさにのけぞる私を逆に不思議そうに見ていた。
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 前置きが、長くなったが、その米の総元締めとも言える旧家が本日の宿である。ここは江戸時代から栄えた豪農の屋敷である。当時全国に1000町歩以上の田畑を持つ豪農は、9件あったとされているが、驚くことなかれ、そのうち5件が新潟県内にあった。その中でも最も大きい伊藤家の敷地立つ大呂庵に今夜は厄介になるのだ。
 伊藤家は最盛期1370町歩(1370ヘクタール)の田畑を所有し、小作人2800人を召しかかえていたという。石高は6万表に達している。数字だけ見ても見当もつかないが、とにかく莫大な米が集められていたのだ。当然、宿のプライドにかけて、ご飯がうまいこと請け合いなのである

 米のことになると、つい力が入って前置きが長くなってしまった。続きは、また明日書かせていただくことにして、そろそろ仕事に戻ります。(ねむっ)
つづく
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by oishiimogumogu | 2010-11-14 23:42 |


酒・食・器そして旅のたわごと・・・


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