戻り鰹を食べに行く⑦

 とうとう連載が⑦になってしまった。なかなか終わらない。忙しいのだ、最近。
 「あいつはヒマなんだよ。」半分小馬鹿にされながらでもいいから、暇人でいたいと思う。だが、来る仕事を拒むほど余裕はないし、このご時世、いつ放り出されるか分からないのだ。仕事があるだけ有り難いと思わないと罰が当たる。私だって、少しは真っ当な事を考えるのだ。
 でも思う、仕事しながら遊びまくるのは大変だ。できれば、ひと月休みなしで働くから、翌月はまるまる休みにしたいものだ。まあ無理なんだけど、そんな我儘が通ったら世界は素晴らしい・・・

 酒は、「十四代 純米吟醸中取り 備前雄町 生詰」。久方ぶりに呑んだ十四代。ふくよかなで透明感がある。華やかさが私は好きだ。
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 ここで、サプライズがある。献立には書いていないのだが、鯖の某寿司だ。
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 この鯖は、「灰干し鯖」と云って、火山灰で魚の水分を取ってから、漬け汁に漬け、干すというより風通しのよい冷暗所で熟成させた鯖なのだ。その骨を丁寧に抜き、葱やみょうがなどの薬味と和芥子を塗った酢飯に合わせてすのこで巻く。それぞれに切り分けてもらった。
 この棒鮨、ひと口目で「う~ん」と唸ったきり、誰一人として口を利ずに平らげた。なんという脂の乗り様。香ばしい皮目の下から満載のうま味がほとばしる。こんな棒寿司は他にはないだろう。
 灰干し鯖は、勝浦の朝市で買える。翌朝全員、お土産に買って帰った。私は見よう見まねで、棒寿司を作ってみた。長岡から届いたばかりの新米を焚き、炒り酒をすし酢の代わりにして、みじん切りの生姜を混ぜ込んだ酢飯を作る。みょうが、小葱、大葉をトッピングして、辛味に柚子胡椒を使った。程良く焼けた灰干し鯖をラップとすのこを使って、巻いてみた。少々不格好ではあるが、これが旨くない訳はないだろう。あと少しフリーザーに残っている。全部棒寿司になるのは間違いない。

 さて、次の料理だがここに来る度に楽しみにしているステーキだ。献立は「焼物、牛ヘレ 鮑」つまり、和牛ひれ肉と鮑のステーキと云う訳だ。
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 まず、牛肉だが、A5+。噛まなくてもいいくらい。ありきたりの表現だが、やっぱりとろけると云うのが一番ふさわしい。塩加減が絶妙。 鮑は、海藻の香りが微かにして、極上のかまぼこに煮た歯ごたえ。赤鮑だとのことだが、これも絶品。牛肉も鮑もステーキならこのくらいの量がちょうどいい。「これまでは、サーロインをお出ししましたが、料理の組み立てから、少し脂の少ないヒレ肉にさせていただきました。」なんとまあ、心憎い気遣いだ。私としては正解。昨年も1昨年もサーロインの霜降りだった。それはそれは美味しかったが、バランス的には、ヒレがとても良かった。

 ここで、あと2銘柄呑んだのだが、酔いに任せてシャッターを切っていない。たこ氏のブログによると、足りないのは「石川 手取川 大吟醸 特醸あらばしり 市郎左エ門」と「岡山 寫楽 純米吟醸 備前雄町」だそうだ。数えると全10銘柄(我々の為に口開けしてくれた酒がほとんどだった。深謝)。圧巻である。

 ここでやっと、〆の前の口直し。「口替わり レモンソルベ」。冷たくてさっぱりと頂ける。手作りなので、レモンの酸味と苦味も伝わる。甘さは控えめ。家の冷蔵庫にも常備したいくらいだ。
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 〆のご飯登場。「食事 鮑肝とろろめし」。これには、眼が丸くなった。土鍋で炊いた鮑ご飯。これだけでも生唾ものだが、そのご飯に鮑の肝を山芋と出汁でのばした肝とろろをかけて、召し上がれ。そう云うのだ。
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 若旦那が銘々の茶碗にごはんをよそってくれる。てっぺんにちょっと三つ葉。各々、身を乗り出すようにその様子を見入っていた。このへんになると皆心はひとつ「肝とろろとは、どんな味か。」それに尽きよう。
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 鮑たっぷりの鮑ご飯。薄味の出汁がいい。肝とろろをかけてみる。思ったような濃厚さはない。臭みもない。ほのかな海藻の香りと、微かな肝の苦み、そして山芋の粘り気のある食感、出しゃばらない出汁のうま味。口入れた時ちょっと信じられない様な感じがあった。鮑の肝も、とろろ芋も昔から知ってはいるが、こんな食べ方があっととは。あまりにも美味であった。
 肝とろろがなくなったら、鮑ご飯だけお代わりして、つくだ煮昆布と山葵で出汁をかけて茶漬けにしてもらった。これも堪えられない。あんなに満腹だと思っていたのに、これは入ってしまう。
 ご飯のお伴は、伊勢海老の味噌汁。薬味が小葱じゃなくてあさつきなのが嬉しい。上品な仕上がりなのだが、下品な私は箸で少し伊勢海老の身をほじくって食べた。
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nt> 最後のデザート「水菓子 クレームブリュエ」がでてきた時、私は食前酒でいただいたコニャックをリクエストして出してもらった。パリパリと水あめを割って、カスタードが出てくる。この甘味とコニャックが良く合うのだ。
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 最後のデザートを食べ終わり、満腹の腹をさすりながらお茶をいただいていると、隣に座ったたこさんが悲しげにつぶやいた「ああ、この楽しい時間が終わっちゃう・・・」
 確かにそうだが、酒も食事も入らないではないか。

 そうしているうちに何処からともなく、「冬は何が美味しいの?」と、始まってしまう。こうなるともう収拾がつかない。こんな迷惑な客は、年に1度で結構だと思われていたに違いないのに、今年は2度も来てしまった。それなのに、もう寒い時期の魚を頭の中で、あれこれと吟味し始める。「またいらしてください」若旦那は云うが、いいのか本気にするぞ。と、云う訳で、新年会もここ中むらに決まってしまった。

 親方、若旦那、石橋さん、最後になりましたが、本当にありがとうございました。



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by oishiimogumogu | 2012-10-03 14:36 |


酒・食・器そして旅のたわごと・・・


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