なんだか良く分からなくなるほど食べる旅①

 本日、深夜にやっと、前回の旅の記録を書き終えた。連載ものの最後を書き終えないうちに、次の旅に出かけ、風邪をもらって帰って来た。体調最悪。ほぼ一週間、仕事で言うことを訊かないない身体に鞭打って、一度外出(この時とばかり鰻を食べた)したのを除き、籠りきりだった。
 とても料理どころではない。食欲もないので、冷蔵庫の中の生ハムだとか、ローストビーフだとか、チーズだとかを少し摘まむ程度で過ごしていた。量にしたら、恐らく普段の1/10程しか食べていない。それなのに、以前の体重と変わらないのは、この旅で食べ過ぎてしまったせいなのだ。でもそれは、私だけでは決してないということを明記しておく。
 こんなことを書きながら思う。さっさと終わらせないと、来週末には1泊で千葉のイル・マーレで、ビンテージワインを開ける会がある。これもまた盛りだくさんなことになるだろう。本当にさっさと終わらせなければ溜まっていく一方だ。
※因みに、今日・明日の夕方から、UVERworldの2daysライブ。国立競技場第一体育館。病み上がりの身体としてはかなりハードですが参戦してきます。

 毎度のことだが前日に出来なかったパッキングを4時に起きて済ませ、バタバタとシャワーを浴び、そそくさと着替えて、前日に淹れてあったコーヒーをレンジで温め、それだけ飲んで家を出た。
 飛行機の時間は10:15。30分くらい前に羽田に着くと、今回の旅の首領である作家の佐藤隆介先生と愚息のhachiyamateiさんと弟のGさんは、既に到着して私を待っていた。それにしても、作務衣にジーンズ、足は雪駄。角刈りの頭にレイバンのサングラス姿の先生は、知らない人が見たら怖くて引いてしまうだろう。本当は、ここに写真付きで掲載したいくらいだが、私も自分の命は惜しい。「先生、ブログに載せたいので、写真を撮らせていただいてもいいでしょうか?」などとは、口が裂けても言えやしない。

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左:羽田空港13番ゲートより出発。 右:福岡空港に到着。

 時は11月2日。羽田空港は快晴。一同は定刻通りの飛行機で福岡空港へと飛び立った。そして、定刻通り11:45に福岡空港へ着いた。さて次は、レンタカーをGさんに運転してもらい、博多の中州にある“ちんや”へ向かう。
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 先代からの付き合いである先生を人美(ひとみ)女将は、首を長くして待っていた。二階の座敷に通されると、まずサラダ。人参ドレッシングがおいしい。
 次に、どんっ。「はい。ローストビーフ」
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 フレンチレストランで、上品にグレービーソースをつけて食べるのも悪くはないが、こういう豪快なのは心まで賑やかにしてくれる。人美女将が、先生に食べさせたいと最上級の肉に丹精込めてくれている。この肉にちんや特製のソースが最高に合う。肉をどうやったらいちばん美味しく食べさせることができるか、この店は知っているのだ。
 
 ビールからワインへ。ソムリエの西山氏が先生の為にチョイスしたのは“Chateau Falfas”。バイオダイナミクス、つまり有機農法の葡萄で作ったボルドーワインだ。ちょっと冷えていたが、素直な感じのミネラリティな香り。少し時間を置くとそこにフラワーフレバーが混在して、柔らかい感じの味わいだ。もう少し時間をおいて常温になったら、ミルキーに舌に纏わりつくのだろうか・・・そんなことを彷彿させる。早い話が、私の好みのワインだった。
 
 さて、お待ちかねのすきやきだ。大皿に唸るほど盛られたお肉達。デパートの高級肉売り場でさえなぎ倒してしまいそうな素晴らしい肉の登場だ。
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 酔っている場合ではない。女将が年季の入った鉄鍋を火にかけ、こんな凄い肉で作ってくれるすきやきに期待で胸がはちきれそうだ。
 こういう繊細な素材のときの鍋料理は、傍らで作ってもらえるのが何より有り難い。素人が鍋を掻き回しても、折角の食べごろを逃してしまう恐れがあるからだ。
 まず、煙が出るまで熱くなった鍋にラードを投入。勢いよく跳ね上がる脂を封じ込めるように、肉をかぶせる。
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 肉に少し熱が入ったところで焦げないように肉の上に上白糖を振りかける。それなのに、甘過ぎることがない。私はこの20年、上白糖を使っていないがこのすきやきの時だけは、これでないと駄目なんだろうなという気がする。
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 そのまま少しおいて、鍋底に水分が上がってきたら、さっと醤油を振り、かき混ぜる。割り下は使わない。博多弁の女将は実に手際がいい。そういうことも、間違いなく美味しさとしてプラスされていくのだ。

 九州は、醤油が甘い。まあ、甘いと言っても砂糖を加えた甘さではないが、私のように東京の辛い醤油で育った人間には軽い衝撃だ。鉢山亭の皆さんをはじめ私の周囲では、あまり評判が良くない。
 私も初めて、この醤油に遭遇した時は仰天した。しかし、よくよく味わってみると、決していやらしい甘さではなく、コクもうま味も非常にレベルが高いと思った。それが、今愛用している肥後菊醤油だが、海苔でご飯を食べる時や平目などの白身でも脂が乗った刺身の時は良く使う。醤油もたまり醤油や減塩醤油、出汁醤油など星の数ほどあるのだから、シュチュエーションによって、使い分ければいいのだと私は思う。
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 肉に軽く味が付いたところで、「お肉、もういいからどんどん召し上がって。」と、女将のお許しが出る。私も箸を伸ばして、大きな肉に卵を絡めて口に放り込む。第一段階は、まだ味が染みきる前で、牛肉の味そのものに近い。口の中で甘くとろけた牛肉の香りが鼻孔から抜けて行く。「なんですかぁ?!この味は・・・」あまりに旨いものを食べた時、この言葉が決まって降りて来る。旨い!とにかく旨いのだ。そして、以外なことにさっぱりとしていて、いくらでも入ってしまう。
 ここで、女将からいい話を聞く。実は、他のお客さんにはあまりしないのだけど、この肉は少し焦げ目がついたところも美味しいの。ちょっと食べてみんしゃい。」すきやきは、肉を焦がさないようにという固定概念があるが、熱々の鉄鍋で少し焦げ目がついたところは、香ばしく本当に旨い。
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 豆腐としらたき、そして野菜は、おなじみの葱、白菜と春菊。その他に博多ならではなのだろうか。もやし、椎茸やえのき茸なども入る。最後には玉葱もだ。そういう野菜や豆腐などにも、ぐつぐつと肉の風味満載の甘辛のつゆが染みて行く。私は卵をお代わりして、こちらの具もいただいた。
 
 ふと気付くと、部屋の入口付近に音もなくさっきと同じ肉の皿がもう一枚控えていた。「えっ!!うそっ?!」そう思ったが、嘘ではなかった。何でもない顔をして、女将が肉を煮始める。
 それにしても、これだけ刺しが入っている肉なのに、全く胃にもたれることがない。何故か、それは肉の質に他ならない。私の見立てでは、A5のさらに上、A5++といったところだが、このくらいの超特上の肉になると脂でさえ胃に優しいのだ。
 お代わりの肉も、みんな何だかんだ言いながらもするすると平らげていしまった。
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 〆のご飯をどうするか迷いに迷ったが、すきやきのつゆが目の前の鍋にふんだんに残っている。このまま飛行機に乗って帰るのであれば、鍋に残ったくったりした野菜ごとタッパに詰めて持ち帰りたいところだ。その美味しいつゆを見のがす訳にもゆかず、茶碗に半分だけご飯をもらい、スプーンで汁をかけ、したらきと葱、それに椎茸をトッピング。上からとんすいにまだ残っていた肉の風味満載の卵をかけて食べた。ああ、旨い・・・
 そんな私を見て、先生は笑っておられた。


 東京での話だが、すきやきの店はいろいろ知っているつもりだったし、いい肉を頂いたときなど、自分でやって食べることもある。味だってそこそこと思っていた。だが、この時をもってここで食べたすきやきが一番ということになった。人生、ゴールはまだ見えないようだ。

 最初から、こんなことでいいのだろうか?何度も同じ疑問が、アタマを過る。だって、これは昼飯であって、天下に名だたる本日の宿のディナーが、あっさりとお茶漬けという訳ではないのだから・・・

 ちんやでは、精肉店も併設していて、肉を買うことができる。この日食べた肉はあくまでVIP用だから、いつでも用意してもらえる訳ではないが、訊いてみると東京のデパートで買ったらいくらするんだろうというお肉が、2/3から半額くらいである。
 私の実家は、まともにお節料理もこしらえない家だが、どういうわけか大晦日にすきやきを食べる習慣がある。その肉を毎年決まって浅草のちんやで買ってくるのだ。そして両親もそれが一番と思って疑わない。
 でも、今年の暮れからは迷わず、博多のちんやにお願いすることにした。勿論、先生のお口添えがあったればこそだが、美味しいお肉が届くと思う。大晦日が待ち遠しい。

つづく
[PR]
by oishiimogumogu | 2012-11-10 12:45 |


酒・食・器そして旅のたわごと・・・


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