春爛漫 その1


 うっ・・・とうとう誕生日が過ぎてしまった。それはさておき、代々続く江戸っ子としては、この時期は肝の底から鰹が食べたくなる。私の場合その鰹は刺身だ。盛り付けられた氷の上でピンと立っていて、本人?もいつ刺身にされたのか分からない位の新鮮な初鰹でなくてはならない。
 ふくよかな味わい、魚特有の臭みとは無縁の爽やかな香り。瑞々しい喉越し。自信の表れとも言おうか、血合いの部分まで味わってほしいとわざと付けてきたりする。想像しにくいかもしれないが、新鮮な初鰹は淡白で、秋の戻り鰹のような強い風味はない。この味ばかりは、出雲崎でのどぐろを味わうのと同様、鰹漁港基地まで来なくては食せない。そう云う訳で、今年もまた勝浦に出かけた。


 2月に某寿司屋で蟹三昧をした時に「そんなに旨いと云うなら、行って喰ってやってもいいぞ」といきまくT氏が今回初お目見えになった。

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              2月の蟹三昧、蟹刺しゃぶ→


 3.11の震災で本当に出かけられるのかと気を揉んだ。でも、「旨いのを食わすから心配しないでおいで」と、割烹中むらの大旦那に諭されて出かけてみたのだった。当日、この大旦那は京都に出張中で留守になる為、実際腕を振るってくれたのは、修行を終えて戻っている若旦那の方だった。


春爛漫 その1_f0238572_16162853.jpgまずは、突き出し。鰹のしぐれ煮


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前八寸。あなご粽寿司、飯蛸うま煮、鯛の子含ませ、蕨・蚕豆・厚焼き玉子、山独活金平、長芋羹・雲丹・ずわい蟹・おくら、新人参のムース、筍ふくませ巻塩煮、紀州うすい豆浸し。
どれも食べるのがもったいないくらいの彩で目でも十分楽しめた。八寸の醍醐味は、こういう手の込んだ美しい料理を贅沢にもほんの一口づつ味わえることだろう。うすい豆とは、スナップえんどうのような豆で、シンプルにおひたしにしてあったが、豆の瑞々しさが生きていて旨かった。T氏も絶賛していた。

春爛漫 その1_f0238572_23513891.jpgきれいに巻かれた笹の葉を開けてみると・・・

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お造り。何も足さない、何も引かない。これが初ガツオの真髄である。食べたものにしか分からない究極の鰹。この刺身を切るとき、氷に手を付けて冷たい手で作業をする。

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鰹の湯〆、納豆ポン酢、筍のしゃぶしゃぶ、薬味いろいろ。これは、ここでしか食べられない究極の料理。小鍋の出しが沸騰したところに鰹の刺身(皮つき)をくぐらせ、臭みをとった引き割り納豆とねぎと茗荷の薬味を乗せ、和辛子をアクセントにしてポン酢でいただく。鰹を食べ終わったら、そこに筍を入れしゃぶしゃぶにして、同様にポン酢で食べる。薬味は少しだけ残しておいて、出しに入れそれをいただく。厳選した真昆布で取った出しに、ほんのり鰹と筍の旨みが加わり、さらに爽やかな薬味の風味で究極の旨さを醸し出す。絶品。

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左:蒸し鮑の肝ソースがけ。右:山形牛の南蛮焼き。特A5級の信じられないような肉のタタキに九条ネギに塩タレを絡めて胡麻が降ってあった。漁協と肉市場の仲買権とを持つ大旦那ならではの素材の引きには唸るばかり。これだから、毎年の中むら詣では止められないのだ。

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左:フランス・シャラン産合鴨ロース。とろける霜降り鴨。右:雲丹の箱蒸し。明礬を使わない雲丹は格別。

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左:伊勢海老と鱚、行者大蒜、太良の芽の天ぷら。これは天つゆでも塩でもなく浅葱を散らした出しでいただく。右:口替り。フルーツトマトのソルべ。トマトの甘みと酸味が絶妙。いくらでも食べられそう。

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左:金目の煮つけ。これをおかずに白飯を少々いただく。この煮魚の汁だけでご飯が食べられる。右:伊勢海老の出しの味噌汁。白の合わせ味噌。いい香りの味噌汁。

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水菓子:デザートは、苺のワインゼリー。さっぱりとした甘さにほのかな酸味。ワインゼリーの食感全てを包み込んで見事な味わい。

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こうして思い返しても、きっと何日も前から考えて準備をしてくれたに違いない。若旦那の想いの伝わってくる料理の数々だ。酒も珍しいのを色々呑んだ。T氏も満足してくれたようだ。今回は大旦那に会えなかったのが残念ではあったが、若旦那の渾身の料理に感激し、再訪を心に誓った。
 
 ホテルまで、若旦那自らが車を運転して送ってくれた。雨風はひどかったが、明日は晴れるらしい。部屋で呑み直してしたが、一時間も立たないうちに、一人また一人と沈没してゆく。旨いものを喰って呑んで寝る。真の楽しみである。
by oishiimogumogu | 2011-04-30 00:57 |


酒・食・器そして旅のたわごと・・・


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