すっぽん①


 先日、いつものメンバー二人と西国分寺駅の改札で待ち合わせた。行く先は“潮”だ。8月も末だと云うのに、容赦のない不快な熱気。それでも、潮に行くとなると話は別である。いくつかの用事を済ませ、出先からそのまま待ち合わせ場所まで直行した。
 
 前回(7月20日か21日だったと思う)訪問した時に既に今日の予約を取り付けて、料理も「すっぽん」をメインに据えると決めてあった。
 すっぽんなんて別段、夏に旬を迎える素材ではないし、むしろ食べようと思えばいつでも食べられるのだが、「前回すっぽんを食べたのは、いつの事か・・・」と、思い出せないほど昔のことだ。大かた仕事の接待か何かで連れて行かれたのだろう。薄い記憶を辿ってみると、「うま味」もさることながら「生臭み」と「脂っこさ」が微かながら甦ってくる。まあ、グロテスクな食材であることには確かだし、触手を伸ばして追い求めることもなかったが、一方で「ものすごく旨い」と、云う話も訊いていて、無視できない食材だった。

 さて、そんなすっぽんを潮の店主はどう料理してくれるのだろうか。この店に足を運ぶようになってから3年は経つが、過去の経験から料理のことはつべこべ言わずに、お任せしておけばいいと考えている。
 駅からの道中、近況報告などしながら店にたどり着く。期待で胸をいっぱいにして、暖簾をくぐった。引き戸を開けるとまず右手にある店主自らが彫った仏像に軽く挨拶し、店内へ。店主に迎えられて席に着く。まずはビールで乾杯。

 この日の先付けは、鮑と鮑の肝豆腐。ほんのり酸味が効いた出汁に、じゅんさいが浮いている。鮑は柔らかく炊いてあり、肝豆腐は肝の粒々感を僅かに残した舌触り。鮑が食べた海藻の香りが残る。とにかく出汁がいい。じゅんさいはつるりとしたのどごしで、夏の暑さを忘れさせてくれる。最初から飛ばしてるなと思う。ギヤマンの蓋物が美しい。早くも夢八氏が「こりゃ、日本酒だ」と、頼む。ビールをチェイサー代わりに、日本酒に切り替える。酔鯨だったか?
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 次は、変わり八寸だが、ちょっと面白くそして涼しい演出があった。大鉢に盛られたかき氷の山に3人分の料理がちりばめてあり、各々折敷に置かれた長皿に自ら盛りつける。
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 右から、丸十(薩摩芋)のきんとん、クリームチーズのいくら乗せ、煮こごり、烏賊の雲丹和え酢橘風味、穴子の牛蒡巻き。こんな演出も楽しい。こんな凝った演出をすると、中身が伴わないことも多いが、ここではどれを食べてもおいしい。特に穴子の牛蒡巻きは、牛蒡独特の風味と穴子の香ばしさがよく合っていて旨い。どれもこれも、上品で自然な味つけで、素材の持ち味を旨く活かしていると思った
 
 次は、碗である。鱧と松茸の吸い物。まず出汁に感心する。私だって鰹と昆布のだしは取るが、適当でいい加減なせいで、出来上がった出汁は何処かエッジのないものしか出来ない。それでも出汁の素を使うよりはるかにいいとは思っているが、ここのと比べたら「かつお風味のお湯」と云っても過言ではないかもしれない。
 ここ潮もそうだが、旨い出汁を撮る店の料理は、やはり料理も旨い。今、頭の中で、好きな店を何件か思い返しても、それぞれの店の出汁の味がなんとなく舌の上に残っている。
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 この碗の中の食材の出会いをいったいどのように説明したらよいものか。松茸は、噛みしめると「キュッ」と云うくらい生に近いが、存分に香りを振りまいてくれる。鱧のなめらかな舌触りは、骨なんか感じない。熱過ぎず冷めてもいない、透き通る出汁に複雑な香りをじっくり味わう。柚子のアクセントと三つ葉の優しいえぐみは、またしても忘れられない一品だ。

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 お造りは、鱧だ。皮半分まで切るという骨切りは、骨も皮もあることを忘れてしまうのだが、ほのかな香ばしさを覚え、ふと裏を返すと皮目が炙ってある。梅肉ではなく、山葵醤油でいただく。口の中でとろけるようだ。花穂紫蘇で醤油に少しだけ香りを落とすのもまたいい。海藻を一旦口にして、その香りが消えないうちに、鱧を口に運ぶとまた少し違う表情を見せてくれる。鱧は食べ手の色に染まるのかもしれない。
 酒が進み、宴も酣。

 いよいよすっぽんのお出まし。土鍋に裁いたすっぽんが煮えている。丸鍋である。主人曰く、「野菜も一緒にしてしまう店も多いが、何も入れない方がいいと思うよ」。鉢にとって早速いただくが、臭みや脂っこさとは無縁。日本酒を煮切ったコクのあるスープ。すっぽんはコラーゲンたっぷり。鶏モモと同じくらい食べやすい。
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 すっぽんって、こんなに美味しかったのか・・・何年も前の味の記憶を手繰り寄せても、まるで違う。鍋のスープをひと口、ぐい飲みに注いで飲むが、さすがすっぽん、ちょっと元気が出て気がした。何とも言えない滋味深く上品な味だ。
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 「すっぽんの肝、食べた事ありますか?」店主に訊かれ、異口同音に「ない」と応えた。だって、肝なんて食べられるの?!そんな話聞いたことがない。「じゃ、食べてみます?」「勿論」。そんな会話の後に出てきたの肝を恐る恐る箸の先で、ちょっと摘まんで口に入れる。
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 それは信じられないような味だった。行きつけの鮨屋でかなり珍しい魚卵系を随分口にしているが、こういうのは初めてだ。強いて言えば、トリュフバターに近い。三人とも顔を見合わせてしまった。「旨すぎでしょ。コレ」。店主からオリーブオイルと酢橘で和えてあることを訊き出し、再度驚く。
 「次は、焼いたのも食べてください。」店主は言わないが、焼きすっぽんを出すということは、相当なことなのだ。すっぽんの質が悪ければ、中まで火が通る前に、コラーゲンが焦げ付いて最悪の結果を招く。
 一同が息を詰めるテーブルに正方形の陶器の蓋物が運ばれてきた。開けると、香ばしい香りと共に、焼すっぽんが姿を現す。「そのまま、かぶりついて下さい」。そう云われて、骨をつまんでガブリ。脂が適度に抜けているので、皮が香ばしくこんがりと焼き上がっている。骨から肉が簡単に外れる。味の表現は難しいが、似ているとすれば、烏骨鶏のももの素揚げを思い出した。形は少々グロいけど、凄く上品に仕上がっている。
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 すっぽん料理はこれで終わり。鍋に残ったスープが後で雑炊になって出てくるとのこと。※雑炊の写真は取り忘れた。

★つづく★
 
 

 

by oishiimogumogu | 2012-09-03 12:52 | 旨い店


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