2010年 09月 09日 ( 1 )

葉山で天ぷら

【プロローグ】
 携帯電話の料金請求書を見ると、契約継続期間は152カ月だ。記憶によると、このカウントが始まる2年か3年前から携帯電話を利用しているので、私の携帯電話利用歴は、トータルでは14~5年と云うことになる。 その間4~5回は何処ぞに置き忘れるという不始末も確かにあった。この成績がいい方か悪い方かは分からないが、置き忘れた先(大抵、食べるところか呑むところ)が、しっかりしていたため、大事には至らなかった。
 しかし、先日の場合は違った。私の携帯を拾得した先が交番であった為に冷や汗を1ℓくらいかくような大惨事に見舞われてしまったのだ。
 
 その日の朝、私は待ち合わせの場所に向かう途中、携帯電話を落としてしまった。拾ってくれた人が最寄りの交番に届けてくれた事を私は、別の交番で知った。すぐに向かえば10分で手元に戻る。しかしタイミング悪く、お巡りさんが持ち出して、本署に行ってしまったというのだ。拾得物はそういうルールで管理されるらしいから、それも仕方ない。本署まで行って待った。しかし、私の携帯を持ったお巡りさんは、来るはずの時間をいくら過ぎても本署には現れない。そうして、現れない理由も、現在何処にいるのかも不明だという。こんないい加減な話があるのか???あんまりムカついたので「途中で、お茶でもしているんぢゃないのっ!」と、毒づいてやったが、事態はなにも変わらない。携帯のお巡りさんとは連絡すら取れないのだ。
 
 突如、理由も告げづに約束を反故にした私を相手はどう思うだろうか・・・それを考えると、気が気ではない。イライラは頂点に達し血圧は急上昇。10分で来ると言って45分経ち、憤死寸前のところで、ようやく憎きオマワリがのんびりと自転車に乗って現れた。本当に殴ってやろうとかと思った。私は即座に携帯を奪い取り、電話を入れて、簡単に事情を話して謝った。相手も怒らずに聞いてくれた。
 だが、既に予約していた店は「連れが急病で・・・」と云ってキャンセルしたとのことだった。楽しみにしていただけにショックだったが、何も言えない。仕切りなおして、別の店に行こうと云うことにはなった。
 もう一度、待ち合わせの場所に急いだ。そのときだ「やっぱり折角だから、葉むらに行きましょう!急いで来て!」と、メールが入る。なんだか心を見透かされているような気もしたが、凄くうれしかった。こうして紆余曲折の末、私達は葉山に向かった。美味しい天ぷらを食べるために!

 正確に言うと、葉山よりも横須賀方面に向かう秋谷の久留和海水浴場のすぐ上に『天ぷら 葉むら』はある。ここに向かう車中で、「具合は悪いけど、這ってでも行きたいと言っているからと予約し直したよ。」と、話してくれた。少し遅れてれても良いように、手配してくれたのだ。警察から電話したとき、キャンセルのことを聞いて私は相当情けない返事をしたのかもしれない。まあいい。たとえ、お情けでも好きなものが食べられるのは嬉しいことだ。
 折しも台風が近づいて、少々風があるなか久留和海岸に到着。店に入ると、平日だと言うのに家族連れなどで、ほぼ満席だ。カウンターに通され、まずはノンアルコールビールで乾杯。あっちに大好きな『O.Henry』が置いてあるのが見えたが、運転してくれた人へのマナーだ。頭の中で天ぷらとの相性だけを想像するにとどめた。
 
 いろいろあったので、実は腹ペコだ。その目の前に江戸切子のお猪口に入った「白舞茸のムースと松茸のゼリー寄せ」が運ばれてきた。いったいどうやったら繊維の強い茸をこんな風にふわふわのムースにできるのか。口に入れるとムースが融けて、上品な香り。後追いで松茸独特のほのかな香りが優しい出しの味とともに広がる。先付けのこの逸品で、この店のグレードの高さが容易に想像できた。
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 ほどなくして、くし形に切ったレモン、小鉢にいっぱいのおろし大根(いい感じに辛みが抜けて、絞らずに水分をある程度残してあった)と天つゆが運ばれてきた。生姜はない。塩、おろし大根、レモンは自由に好きなだけ使って食べてという流儀らしい。
 そうして、いよいよ天ぷら。主人が揚げたてを折敷に乗せてくれる。巻海老、とろろの大葉包み、真櫨、オクラ、馬糞雲丹の磯部、ズッキーニの海老のすり身のせ、鮑(マタガイ/夏はマタガイ、冬は黒を使うとのこと)、銀杏、百合根、松茸(酢橘添え)、あおり烏賊、穴子、アスパラ(長崎産)、再び真櫨で締まる。真櫨が2度出たのは、連れて来てくれた方の配慮だろう。この店ではカオなのだ。
 日本橋あたりで食べ慣れている、ごま油でビシっと揚げた天ぷらとはまた一味違う。クセのない薄衣がさっくりとし、ネタはふっくらと優しい味わいだ。この揚げ具合が絶妙で、揚げすぎると風味が落ちるし、その逆だと生になる。主人は引きあげてから余熱で火通りすることも計算して揚げるのだ。
 
 本当にどれも美味しかったが、櫨と馬糞雲丹には唸った。櫨は淡白、雲丹は濃厚などという頭の中のしがらみを何処かに吹き飛ばす。魚介の醍醐味は、その香りとほんの少しの苦み、そしてそれぞれが持つ独特の歯ごたえにあるのではなかろうか?櫨も雲丹も最後にほのかな甘みが追いかけ、味の記憶として海馬に留まる。使っているネタが素晴らしい証拠だ。特に櫨は、この時期のほんの短い間が旬である。味自体も繊細で、新子や仁丹に共通する瑞々しさがあった。
 後半では、他の客も引いて私たちだけになったので、このアスパラは何処の?だの、この鮑の種類は?など主人との会話も一緒に味わった。
 〆のご飯の部では、またまた特別に作ってもらった丼に舌鼓を打った。大きめの小柱を大星と云うのだそうだが、それを天ぷらに揚げて、ご飯に散らし、さらに花錦戸の松のはこんぶを振りかけ、そこに天つゆをたっぷり吸わせたおろし大根をのせて食べるということをした。これは圧巻であった。世の中に何軒の天ぷら屋があるのか知らないが、こんなことをさせてくれる店は他にはないだろう。
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 デザートのシャーベットも特別に2種類頼んだ(いちじくと靑柚子)。最後にさっぱりと口直しをしてくれた。

 店を出るとき、美味しいものを食べさせていただいてと、お礼を言ったら、「お具合が悪いのに、遠くからわざわざお越し下しくださいましてありがとうございました」と、お返しいただいた。このときまですっかり忘れていたのだが、そうだった私は病を押してここに来たことになっている。しかし恐らく、あの食べっぷりはとても病人ではないなと主人も気づいていたに違いない。

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【エピローグ】
 久しぶりに葉山の海を見た。葉山公園から見る長者ケ先は、私の好きな景色の一つだ。ここに来る前の大アクシデントがまるで無かったことのように、細い岬は波を受けて横たわっていた。折しも満潮で、岬は二つに分かれている。風に吹かれて霞む江の島を眺めながら、他愛もない話をした。同行してくれた人も、こういう海を見るのはいいものだと思ってくれたようだ。 
 実はブログがきっかけで、こんな運びとなった。書いているものをお互いに知ってはいたが、実物と会うのは初めてだった。あちらはどう思っていたのか知る由もないが、私としてはいろんな意味で、かなり緊張した。経験がある人もいると思うが、ネットオフラインの手さぐりの縁である。
 そう云う訳だから、待ち合わせの前に携帯を落とすというヘマをやったことで、この人には余計にいろんな思いをさせてたのではないかと自分を責めた。携帯をきちんと仕舞わずに自転車を走らせた物の管理のガサツさを心底反省した。帰りの車中で再び詫びる私に「結果オーライだよ」と返してくれた。我慢強いうえ、心の広い人だ。気が付いたら緊張感も解けて、笑える話も大いにできた。
 
また、再びこんな機会があるかどうかは分からないが、残暑厳しい夏の楽しかった一日として、美味しい天ぷらとともに後々も思い出すに違いない。

湘南はやっぱりコレかな
by oishiimogumogu | 2010-09-09 10:12 | 旨い店


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